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The Interrogation

尋問

訳者より

ファイレクシア流の考え方を垣間見ることができる、尋問の記録です。


 下記の出逢いは、不運にも焼け焦げて完全ではない写本から書き直されたものです。このヨーグモスの僧侶の尋問に関する記録は、それら謎多き存在の処世感に魅惑的な光を投げかける、唯一知られているものなのです。

― テイジーア

 彼は闇の中に鎖でつながれ横たわっていた。彼の手足首の皺には血も滲んでいなければ、しなびてもいなかった。その深い瞑想中に、同朋が光を灯すように声をかけたとしても、彼には自分を取り巻く状況を意識から取り除くほどの余裕はないだろう。彼は、危険な愚者たちの手に落ちているのだから。

 廊下の奥のほうで、ドアが開け放たれるのが聞こえた。やってきた松明をまともに受けて、彼を取り巻いていたおぼろげな空虚が引っ込んだ。湿った木と木がきしむ音が聞こえ、松明持ちがドアを開け放したせいで一瞬目がくらんでいた。彼はもがいたが、手かせは彼の身体を再び傷つけた。光がかろうじて彼らを照らすばかりに広がり、二人目の松明持ちが入ってきた。ドアを抜け、不似合いなほど華麗なローブに身を包んだ学者くさい男の後ろに付いて、その光は大股に歩んだ。

 「起きろ、狂信者よ」男が強要するように、それでいて妙に慎重に呼びかけた。「我々には時間があまりない。私は、お前の受け答えの好機を最大限に利用させてもらうつもりだ。」

 囚人は相変わらず黙っていたが、ローブ姿の者をまぶたひとつ動かさずに凝視していた。

 「蛮人よ、」訪問者は続けた。「お前は最も憎んでいる敵の慈悲を受けている ― 漆黒の手教団(The Order of the Ebon Hand)の慈悲をな」彼は信徒のローブを着た松明持ちを身振りで指し示した。「教団はお前の肉体を、お前の魂を、お前の精神を打ち壊すだろう。」彼は一瞥しながら、わずかに前かがみになった。「私は、お前が終わり無き悲鳴を上げる前にちょっと話したいことがある。」

 囚人は静かに、嫌悪をこめた声で呟いた。静かで抑揚を欠いたその声は、どことなく嘲笑を含んでいた。「私はヤースィス(Y'sith)、ヨーグモスの僧侶の第5陣に属するもの。教団のものでないとすれば、お前は誰に向かってしゃべってるんだ?」

 尋問者はにやりと笑った。「私は教団のものだ。しかし私は自分の目的でここにいる。」彼は頭をさっと戻し、松明の光が自分の顔を照らすようにした。「私はエンドレク・サール(Endrek Sahr)、繁殖師(Master Breeder)であり、生命の創造者(Creator of Life)であり、そして造物主たる一族(Race Architect)のものだ。お前は漆黒の手教団の敵であり、私は、お前の最終目標と私のそれとの差異が許容範囲かどうかの判断を下すためにここにいるのだ。」

 「漆黒の手教団は我らの敵ではない。」

 「敵でない?お前はファイレクシアのものではないのか ― 偽の僧侶なのか?お前とお前の種はアーティフィサーの進化への努力の結果、奪われ滅ぼされたのではないのか?ヨーグモスの崇拝は、我々が互いに戦うことを要求しているのではないのか?」

 ヤースィスは頭を上げて石床からそらし、傲慢にののしった。「うすら馬鹿めが。我々は、お前らには到底理解できないものなのだよ。」

 エンドレク・サールは再びにやりと笑った。「いやはや、我々の敵ではないとな。」

 「沼の虫が刺した時、お前はそいつに戦いを挑むと言うのか?お前はそれを自分の敵だと宣言するのか?」囚人は自分の頭を石床に触れるまで下げた。「そう言うことだ。それがヨーグモス様とお前の尊敬する教団の関係だよ。立ち去れ、繁殖師よ。お前も漆黒の手教団も不快なだけ。それ以上の何ものでもない。」

 サールの眼は闇に飲み込まれた。彼はゆっくりと慎重な動作で、自分のふくらんだ服の袂の中から短剣を引き出した。彼はナイフの先を捕虜の鼻の頭に当て、そこで手を止めた。

 「沼の虫の中には、一噛みで殺すことのできるものもいる」穏やかにヤースィスの眼の周りに輪を描きながら、彼は言った。「そしてそれは、お前が目にすることになるだろう。ヨーグモスの僧侶の皮膚をも突き通すほどの一噛みをな。」短剣はヤースィスの額にカツンと当たり、ビロードに包まれた石に刺さったかのような音をたてた。そして短剣は元通りローブの中へと消えた。「敵と仲間は慎重に選ぶものだぞ、ヤースィス。お前が人工生命を破壊するという誓いを立てたとはいえ、そもそも私の興味は真の多様性にこそある。私は真鍮の歯車やカラクリは必要としない ― 私の創造物は本当に生きているのだから。」

 「うすら馬鹿め、我々は破壊などしない。お前らが”真”と”人工的”な生物の間に設けるような区別もしない。すべての生物はエネルギーであり、愚かなアーティファクサー ― もしくは繁殖師 ― たちがくだらぬ贋作を作るのを見過ごすぐらいなら、そのエネルギーは建設的な目的に使用するほうが良いだろうよ。」

 「”建設的な目的”だと?誰も、そして何もお前の世界から戻ってきたことがないではないか、偽の僧侶よ。お前がむかつきを覚える、他の者の作品を喰らい尽くし、何一つ生み出さないことが建設的だと?」

 ヤースィスは再びやじった。「この次元で生み出された誰も、そして何もファイレクシアで生きるのには適さないだけだ。我らはお前の見当違いの努力を破壊しているわけではない、ファイレクシアがそうしているのだ。弱者と腐者と病人をふるい分けているのだ。外科医が壊死した手足を嫌がるか?それと同じ、我らもお前らのアーティファクトを嫌がることはない。覚えておくがいい。最も見込みがあったアーティフィサーは、ファイレクシア ― 純粋なるアーティファクトの高み ― で一目見た機械のぎこちない再創造物をもって数ある都市のすべてを征服したのだということを。だが貧相な複製にすぎないこの”ドラゴン・エンジン(Dragon Engine)”を見たときに見せた、哀愁を誘うほどのお前の驚嘆は、お前の想像力と意思がいかに貧相なものかを証明してくれるのだ。」

 「未だにファイレクシアの憤りがその点に深く注がれているのはわかった。しかしまたなぜ、機械生物への蔑視が私とお前を争わせねばならぬのかわからぬ。アーティフィサーは機械を作る。ファイレクシアはそれを破壊する。しかし、私はアーティフィサーではないのだ。」サールは呟くように顎を動かし、つながれた僧侶から顔をそむけた。「もしだ、お前が言っているとおりなら、ファイレクシアの真の生命と機械生命の間には、何の違いもないと言うことだ。さらにだ、ファイレクシアの基準に照らし合わせれば、我々の最も偉大なアーティファクサーでさえ赤子にすぎないということか。そうすると、お前の信仰と私の仕事が会い交わる時なのかも しれんな。」

 サールは石床のそばに肘掛け椅子を引き寄せ、松明持ちもそれに従った。二人目の松明持ちがヤースィスを照らすために動くと、繁殖師は音もなく座って言った。「我々がどれだけのものを保有しているのかわかっているのかね?ファイレクシアには生けるクリーチャーとは区別できない機械があるということはわかっている。ここでは、私は無から生物を作り出している。我らのスラル(Thrull)は生きており、教団がそれを解放する時までそれは不気味なエネルギーを注ぎ込まれている。」

 ヤースィスは床の上 ― サールが何とか避けられる、足の間近に油ぎった泡を吐き出した。「お前は勘違いしているんだよ、エンドレク・サール。そのクリーチャーどもは今までに作られたどんなものよりも粗悪で弱い。それらは第1スフィアでさえ生きれんよ。”エネルギーを注ぎ込んでいる”だと?」彼は冷笑し、また吐き出した。「ファイレクシアの驚異は、周りのエネルギーから力を引き出すんだ。お前のスラルは永遠に創造というたった一つのひらめきに制限される。それらは、最初に作られたもの以上にもならないし以下にもならないだろう。」

 僧侶の声は怒りとともに嘲笑い、後ろに倒れ、やんわりと喘いだ。「我々はお前のような考慮に値しない卑しい道楽者を捕らえているよ。信徒がお前の最高機密に近づくことを許さないように、我々はこの次元や他の次元のどれにもお前のガラクタを散らかすことを許しはしないだろう。」

 「今私がここに横たわっているように、ミシュラもファイレクシアの中心深くで横たわっているのだ。来る日も来る日も肉体の苦痛と責め苦によって身体がボロボロになってな。そいつは牢の中で悲鳴をあげ泣き叫び、信仰への破戒という罪の許しを乞いている。が、奴は決して許されることはない。解かれることもない。」ヤースィスは石床から起き上がった。「そして、この次元でお前に与えられた猶予が尽きたとき、繁殖師よ、お前も奴の仲間入りをするのだ。」

 エンドレク・サールはしばし沈黙した。そして、彼は吠えるように笑いだして椅子からのそりと立ち上がった。「ありがとう、反抗的な我が友よ。お前は愚かにも知識の共有への私の招待を断った。とはいえ、なおも私に思考の糧を与えてくれた。」彼はもう一度短剣を取り出し、それを椅子の肘に ― 彼の腕がわなわなと震えていた場所に ― 深く突き立てた。「願わくば、お前との対談が教団の糧にならんことを。」

 そうして繁殖師は踵を返した。ちょうど吹き抜けた陰惨な霊感が過ぎると、彼の心の中は憤怒に唸り声をあげていた。彼は付き添い人から松明と短剣を受け取ると、部屋から急いで出てかんぬきを再び閉めた。彼らが廊下の奥へと行くと、灯りは薄らいでいった。

 ひとり、ヤースィスは一時の間耳を澄ました。そうして、表情のない顔をわずかににやりと笑わせた。そのニヤニヤ笑いは彼の唇を、まるで互いに向かい合ったカミソリの刃のように見せた。ファイレクシア自身の心臓に横たわる、闇と悪意を持った光輝のかすかな鼓動を写して彼の眼には光がともっていた。

 そして、すべては闇に包まれた。

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